
私は人事部の管理職なので、採用が仕事だと勘違いされることがよくあります。
社長ですら勘違いしています。
入社してから1か月も経たないうちに休職するようなメンタルの弱い新卒さんについて、
「なんでそんなのを採用したんだ」
「さっさとクビにしろ」
と怒られるのは私です。
でも私が採用を決定したわけではありません。
人事の仕事は採用だけではありません。採用した後の人間の管理の方がはるかに面倒です。
私は社長に、
「日本の法律ではそう簡単には辞めさせられません」
「休職期間満了まで待って、自然退職にした方がいいです」
と言ったのですが。
そもそも一旦採用したら簡単に辞めさせられないことくらい、採用担当者がちゃんと心得ておくべきですよね。
だから私は採用担当の人に、
「メンタルが弱そうな新卒は絶対に採用しないで!」
と念を押すことになります。
よく就活が厳しいなどと言う学生さんがいますけど、その原因の一つに、日本の法律や判例による解雇規制が厳しいからだと言う人もいます。
(私はそれが主な原因だとは思いませんが)
確かに日本の法律では、たとえ逮捕されたような人でもすぐには解雇できません。でもそれは有罪が確定するまでは無罪として扱うのが大原則なので当たり前のことですよね。
起訴されたら無給の休職になるのが普通ですけど、就業規則に解雇事由をちゃんと記載しておけば、面倒ですが解雇手続きを進めることは可能です。
なので、現状でも解雇規制が厳しすぎるというわけではないのですが、経営陣は従業員との間で訴訟問題になるのを嫌がるので、解雇はなるべく避けた方がいいのです。
採用の仕事をしている人なら、一旦内定を出したら軽々とは撤回できないことも知っているはず。だから、慎重に検討を重ねて、ちょっとでも疑問点があったら不採用にすべきです。
うちの会社の新卒の採用倍率は何十倍もあります。
(そんな会社はたくさんあります)
就活をしている側も「数打ちゃ当たる」で何十社も応募しているのですから、お互い様でしょう。
それだけの中から厳選しても、すぐに休職したり退職する人がいるのです。
新卒を採用するのが馬鹿らしくなりますね。
よく新卒の3割が3年以内に辞めると言いますけど、その3割を排除して残りの7割だけを採用しても、その7割のうち3割は3年以内に辞めるのだから、厳選しても無駄だと言う採用担当者もいます。
社会人生活のあまりの厳しさと、学生時代の甘さとのギャップにびっくりして、会社に来られなくなって、診断書を送ってくれと言ったら適応障害や不安障害などと書かれた診断書をカメラで撮影したりPDFにして送って来たままこっちからメールやチャットで連絡しても返信しようとしない新卒さんもいます。
1か月でメンタル不調になるのはもちろん私傷病です。まだろくに働いていないのですから、どう考えても会社に責任はありません。
満員電車での通勤ストレスや電車の遅延のあまりの多さでメンタルをやられる人もいますけど、それも通勤災害とは言えないので私傷病です。
私傷病休職は労働者の権利ではありません。働けない人に対する休職命令は、会社から出すものです。
本当だったらメンタル不調で働いていないような人は労働契約の不履行になるのですが。30日で解雇するのはかわいそうなので、何か月か退職までの猶予期間を会社独自の就業規則で設定しているのが休職制度です。
休職規程は中小企業にはない場合もありますが、大企業だと入社1か月でメンタルをやられても3か月から半年くらいは休職できるところもあります。(良心的な会社なら試用期間満了による解雇ではなく、試用期間を延長してあげます)
私が現在勤務している会社だと、休職期間は勤続年数にもよりますが、最大で1年半もあります。(長すぎだと思うのですが)
その間に人事部では、会社に来られない人のためにわざわざその人の自宅の最寄り駅の近くまで行って休職命令書を渡して今後の説明をしたり、健康保険料や厚生年金保険料が会社指定の口座に振り込まれているかどうかを確認したり、産業医面談の設定をしたり、EAP(従業員支援プログラム)を利用した場合にカウンセラーの意見を聞いたり、リワーク支援センターの案内をしたり、衛生委員会で調査報告をしたり、復職判定委員会で復職の可否を検討したり、出社訓練につき合うためにその社員よりも早くから出社して待っていたり、いろんな余分な仕事をしなければいけません。
なぜ入社したばかりで全く会社の役に立っていない新卒に対して、ここまでしないといけないのでしょうか?
新卒を採用するよりも経験者を中途採用した方が社会人生活に慣れているだけマシだと思います。
私の会社も今は経験者を中途採用する方が多くなっています。
管理部門のような面倒くさい仕事は特に経験者採用が多いです。いちいち素人に仕事のやり方を手取り足取り教えながら給料を払うという、効率の悪いことをしているのは、それこそ昭和の会社ですよ。
新卒一括採用は時代遅れ。
でも、営業部の人は新卒でもいいと言うんですよね。
営業なら先輩に同行すれば素人でも仕事がすぐに覚えられるからという理由もあるかもしれません。
(営業は美人おねーちゃんの方がいいという理由もあるかもしれませんが)
勘違いして配属ガチャなどという用語を使っている人もいますけど、採用してからどの部署に何人配属しようかを決めるドンブリ勘定の会社があるのでしょうか?
新卒が営業に配属されることが多いのは、採用計画の段階でそう決まっているのです。
中途採用でも問題社員が混じっている場合はあります。でも、前職調査やリファレンスチェックなどは、中途採用の方がやりやすいはずです。
(リファレンスチェックは職業安定法や個人情報保護法をちゃんと守ってやっています)
それとも、派遣社員を3年後に直接雇用にした方がよっぽどいいかもしれませんね。3年間一緒に働いて、人となりをよく分かっているなら、リファレンスチェックなど不要ですから。
SPI(適性検査)を形だけ受けてもらうことはありますけど、働きぶりをよく知っている派遣さんの方が、未経験の新卒さんよりよっぽど確実です。
契約社員でも同じです。今は『有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律』で、契約社員の待遇差別は禁止されています。
だから新卒は契約社員として採用するという会社もあります。差別禁止なら同じですから。
そしてメンタルをやられない人だけ無期雇用にすればいいのです。
※一部のサイトに無期雇用と正社員は違うという古い記述がまだ残っていますけど、現在は『同一労働同一賃金』の原則があるので、無期転換した社員だろうと正社員だろうと、有期雇用の契約社員だろうと、不合理な賃金格差をつけるのは違法です。
同じ仕事をしているなら、何社員だろうと不合理な待遇差別をしてはいけません。
※無期雇用フルタイム労働者は同一労働同一賃金の対象外という間違ったことを書いている外部業者も一部にありますが、鵜呑みにしてはいけません。
無期転換された社員に対して不公平な扱いをしているような会社は、確実にブラック企業扱いされますよ!
どのような雇用形態を選択しても納得できる処遇を受けられる。
これが今の会社に求められていることなのです。
同一労働同一賃金の原則は、「同じ仕事をしている人」は公正な待遇をしなければいけないという意味です。違う仕事をしている人には当てはまりません。
でも、給料の違いは「仕事による違い」であって、「正社員」や「契約社員」や「嘱託社員」のような雇用形態の違いによるものではないのです。
簡単な仕事をしている正社員よりも、難しい仕事をしている嘱託社員の方が給料が高いのは当然の話です。
何社員だろうと会社の大事な社員です。契約社員でも嘱託社員でも同じです。
正社員が上で他の社員が下のようなことはありません。元部長が嘱託社員になったからと言って新卒社員よりも下になることはありません。
だから新卒を契約社員として採用しても、待遇差別ではありません。
IT業界や新しい業界だと、新卒は契約社員ということはあります。うちの会社はIT企業ではありませんけど、東京の会社なので、田舎の会社よりも新しい考え方の導入は早いと思います。
それでもまだ、新卒は正社員でなければいけないと思い込んでいる古い会社があるんですよね。そういう会社は、正社員が非正規よりも上だと勘違いしているのでしょう。
繰り返しになりますが、何社員だろうと、同じ仕事をしているなら差別をしてはいけません。
勘違いするのは勝手ですけど、そういう会社が学校を卒業したばかりの新卒を最初から正社員として採用するつもりなら、慎重の上にも慎重を期すべきですよ。
中途採用者の割合が増えているのは、超少子化も理由の一つですが、それだけではありません。
実際に採用を最終決定している50代~60代の取締役や兼務役員の世代は、昭和末期から平成初期にかけて猛勉強をして大学に入学した世代の人たちです。
1990年前後の一流大学の現役進学率は約20%です。つまりほとんどの人が浪人しないと一流大学には行けなかったほど18歳人口が多かった時代です。今のように推薦やAO入試や面接だけでお手軽に入れる大学が多い時代とは全く違います。
苛酷な受験勉強をしてきた世代の人たちは口を揃えて言います。
「今の学生は勉強をしていない」
大学が全入時代になって、勉強する習慣のない人でも大学に入れるほど全体のレベルが落ちたというだけでなく、「努力」や「根性」を昭和の風習として忌み嫌うことで、メンタルも鍛えられないまま大人になったのでしょう。
そして社会人生活の厳しさに耐えかねて、すぐに音を上げることは、私のような休職者対応の仕事をしている者にはよく分かっています。
メンタル不調者の面談報告書を見ると「心が折れた」と表現する人がとても多いです。(みんな同じ表現をするのには苦笑するしかないですけど)
上司にパワハラを受けたというなら人事部で相談に乗りますし、本当にパワハラならハラスメント対策委員会で調査審議をしますが、そうではないのです。
心がすぐに折れるだけでなく、「誰も寄り添ってくれない」と言う人までいます。
会社はあなたの親ではないのですよ! 雇用契約を結んで働いているという自覚がないのでは。しかもたいした仕事をまだしていないのに……。
パワハラ相談窓口に、
「頑張っているのに上司に評価されないから心が折れる」
と訴えてきた人もいます。(どこがパワハラなんだか)
私が「頑張りがいつも報われると思っているなんて、子供か」
と言うと、お前がパワハラだと言われてしまうので、優しいお姉さんになったつもりで、
「あなたが頑張っているのはみんな見ているよ」
と、いちいちなぐさめて、心が折れないようにしてあげないといけないのです。
後で人事部の後輩社員に、
「〇〇さんの仕事ぶりを直属の上司以外で誰か見てると思う?」
と聞いても、社員数が多いので「誰でしたっけ」と言います。
労働者名簿や出勤簿や賃金台帳や年次有給休暇管理簿の作成は法律による義務なので、誰がいつ何時まで働いたかは、私のような仕事をしている者は、勤怠システムを見れば一目で分かります。
他にも学歴や経歴や資格や家族構成などは、調べればすぐに分かりますけど、(扶養家族を知る必要があるだけでなく、連絡が取れなくなった休職者の緊急連絡先を知る必要があるので)
その人の細かい仕事ぶりまで把握しているわけではありません。
人事制度を改定した時に就業規則を変更するような仕事は私がやります。人件費などの予算も私が作ります。でも他の部署で働いている人の評価は私の仕事ではありません。
人事というのは人事評価の意味ではありません。会社全体の人間を管理する仕事は他に山ほどあるので、一次評価はそれぞれの部署でしてください。
※今は社内のやり取りがメールやチャットになっていますし、在宅勤務の人もいるので、顔すらよく知らない社員は普通にいます。でも社内メールやビジネスチャットのアイコンに顔写真の掲載を強制するのはだめですよ。代わりにイニシャルなどを使用している従業員に対して不利益な扱いをしてはいけません。
フリーアドレス制(固定席の無い制度)が一時期流行った頃は、隣に座っている人が誰かも分かりませんでした。
さすがに社員の機密事項を扱っている私のような者はすぐにフリーアドレスの対象外になりましたけど、今でも固定席のない人は存在します。(法人営業部で外回りをしている人など)
そういう普段は交流のない部署の人から「上司の〇〇さんのせいでうつ病になりました」とパワハラ相談窓口に通報されても、「誰だったかなぁ……」と調べてから、事実関係を聴取しなければいけません。
先述の通り、うつ病なら会社に来られないので、その人の自宅の最寄り駅近くまで行って話を聞くことはよくあります。たまに実家にひきこもりになる人もいるので、そういう場合はわざわざ遠隔地まで出張して対応することもあるのです。本当に面倒です。
大きい会社では他にもさまざまな人が働いています。派遣社員もたくさんいますし、出向で来ている人もいます。海外に長期出張で行っている人もいますし、準委任契約で来ている人もいます。障害者雇用でせっかく採用してあげたのにすぐに消えていなくなる人もいます。時短勤務なのに割増賃金を請求してくるような人もいますし、自宅の回線を使っているのだから在宅勤務手当を出せと要求する人もいます。
いろんな人がいるので、全員の世話を焼くのは大変すぎます。
※在宅勤務がブームになった時に、在宅勤務手当が割増賃金の算定基礎に入るのか実費弁償になるのかどうかが、人事労務関係者の間で議論になったことがありました。(労働法には書かれていませんでした)。私が労働局に問い合わせても「企業の実態によります」という回答でした。2024年になってからようやく「就業規則で実費弁償分の計算方法を明示すること」と通知が出ましたが、最近は法律に書かれていない働き方をしてる人がいるので、机上の勉強をするだけでは実務に対応できないのです。
メンタルヘルス対策が義務化されて、ストレスチェックの結果を労働基準監督署に報告する義務ができたのも面倒ですね。(労働安全衛生規則 第52条の21)
なぜか休職者はストレスチェックの対象から外してもいいとなっていますけど、むしろ休職者こそ実施すべきなのでは?
このストレスチェック制度、実施マニュアルだけでも200ページもあるのですが。全部読んでる人がいるのでしょうか? しかも従業員のストレスチェックの結果を会社が知るには、個別同意をいちいち取らないといけないのです。何でそんな面倒くさいことをしなければいけないのでしょう。
健康診断を何人サボったかも労働基準監督署に報告する義務がありますけど、こういうのは健康診断やストレスチェックをする業者を儲けさせるための制度だというのが丸わかりです。
自分の健康管理は自分でするものです。それが心の健康でも同じです。
だからと言って、上司に認めてもらえなくて心が折れた人に、
「誰もあなたの頑張りなんて知らないよ」
「それが組織というものだよ」
と本音を言うのは、空気が読めない人のすることですよね。
休職者には空気が読めない人もいますけど、休職者の対応をする側が空気を読めないようでは仕事にならないので、そこは建前と使い分けないといけません。面倒な時代になりましたね。
『部下の手柄が、上司の手柄になる』ことへの不満が、人事部に寄せられることもあります。これも組織ではよくあることです。
私も最初に入社した会社で、私のやった仕事が上司の手柄になったことは何度もありました。今いる会社ではあまりありませんが、古い体質の会社だと、上司による部下の手柄の横取りはよくあります。
(前の会社の常識が、今の会社では非常識だったということは、転職してみないと気づかない)
でもその程度で心が折れて休職するようでは、会社員としてやって行けませんよ。
他人に期待するのがそもそも間違っています。
仕事というのは他人に認められるためにするものではありません。
もし今いる職場が期待はずれだったり、認めてもらえていないと思うなら、さっさと転職すればいいのです。
昔と違って今は転職が当たり前の時代です。
最初に入社した会社が自分の理想の会社だという確率はとても低いです。
一つの職場に一生しがみつかないといけないという考え方は、あまりにも時代遅れすぎます。
去る者は追わず。引き止めたりしませんよ。
1人あたり100万円以上の採用コストがかかっていますけど、損害賠償を請求したりはしませんから。
働かない人や休職している人の健康保険料や厚生年金保険料を半額負担する方が、会社にとってはよっぽど迷惑です。
退職するのはいいけど、休職されるのは迷惑。
……とにかく、すぐに心が折れて休職するような人を採用するのは費用の無駄ですし、社会保険料も無駄です。
採用担当の人がここを見ていたら、
メンタルの弱い人は安易に採用しないでくれ!
と切実に言いたいです。
それが、メンタル不調者に事情聴取をしたり所属部署の上長にハラスメントの確認をしたり、休職委員会や復職判定会議を開催したり、いろいろ面倒なことをしなければいけない者の本音なんですよ……。